大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)5291号 判決
原告
古賀幸雄
右訴訟代理人
吉田鉄次郎
被告
山下光彦
右訴訟代理人
平栗勲
主文
一 被告は原告に対し、金一九二二万四五八一円及びこれに対する昭和五七年七月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事 実≪省略≫
理由
一事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない(事故の態様の詳細については後記四1で認定のとおりである。)。
二責任原因
本件事故の発生につき、被告に過失があつたことは当事者間に争いがない。従つて、被告は、民法七〇九条により、原告が蒙つた損害を賠償する責任がある。
三損害
1 受傷、治療経過
<証拠>によれば、原告は、本件事故により右下腿骨開放骨折(脛骨部分欠損)、頭部外傷I型、顔面挫創及び左下腿擦過創の傷害を負い、昭和五六年八月一三日から同年九月二五日まで日聖病院、同日から同年一二月五日までに仁愛病院、同日から昭和五七年二月二八日まで日聖病院、同年一〇月四日から昭和五八年八月二日まで新世病院に各入院し、同月三日から昭和六〇年一月一八日まで同病院に通院(実日数三六日)して治療を受けたが、同日ころ、後遺症として右下肢の短縮、右腓骨変形、右膝及び右足関節の機能障害が症状固定したことが認められる。
2 治療関係費
(一) 治療費
原告が、本件受傷の治療費として請求原因3(二)(1)のとおり四〇一万四六七〇円を要したことは、当事者間に争いがない。
(二) 医療扶助金
<証拠>によれば、原告は、(一)の他に、右受傷に要した治療費につき、生活保護法に基づき寝屋川市から合計八二一万九五二〇円の医療扶助を受けていること、本件事故による損害賠償の責任範囲等について争いがやんだ後に右医療扶助を受けた費用は返還することを約していることが認められる。
被告は、生活保護法に基づき原告が受けた医療扶助の費用については、被告が損害賠償義務を負うものではないと主張するが、原告は、交通事故の被害者として、加害者に対して損害賠償請求権を有するものの、加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり、その賠償を直ちに受けることができず、他には現実に利用しうる資力がないが、傷病の治療等の保護の必要があるのであるから、利用し得る資産等はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして、生活保護法四条三項により本来的な保護受給資格は有しないが、例外的に保護を受けたものであると認められる。そして、このような保護受給者である原告は、同法六三条により、後に損害賠償の責任範囲について争いがやみ賠償を受けることができるに至つたときは、その資力を現実に活用することができる状態になつたものとして、費用返還義務が課せられると解される(最高裁判所昭和四六年六月二九日判決民集二五巻四号六五〇頁参照)。従つて、原告は、訴訟上被告に対し、右医療扶助の費用相当額について本件事故による損害として賠償請求しうるものであるから、被告の右主張は失当である。
(三) 入院付添費
原告が入院中付添看護を受けたことにより一四八万八〇〇六円を要したことは、当事者間に争いがない。
3 逸失利益
(一) 休業損害
<証拠>によれば、原告は、事故当時四七歳で、建設会社に勤務し(この点は当事者間に争いがない。)、一か月平均二四万八〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故により、昭和五六年八月一三日から昭和六〇年一月一八日まで三年五月六日間休業したが、前記受傷の程度、治療状況等の諸事情を考え合わせると、右期間中の収入の逸失の内九〇パーセントにつき本件事故と相当因果関係のある休業損害と認めるのが相当であり、左記算式のとおり九一九万五八四〇円となる。
(算式)
二四万八〇〇〇×(一二×三+五+六÷三〇)×〇・九=九一九万五八四〇
(二) 後遺障害に基づく逸失利益
前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度等の諸事情を考慮すれば、原告は前記後遺障害のため、その労働能力を五六パーセント喪失したものと認められるところ、原告の就労可能年数は昭和六〇年一月一九日から一七年間と考えられるから、原告の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり二〇一二万六八七八円となる。
(算式)
二四万八〇〇〇×一二×〇・五六×一二・〇七六九=二〇一二万六八七八
4 慰藉料
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は八五〇万円とするのが相当であると認められる。
四過失相殺
1 <証拠>によれば、次の事実が認められる。
本件道路は市街地を南北に通じる二車線のアスファルト舗装の道路であり、幅員は北行車線が二・四メートル、南行車線が二・七メートルで、道路両端には各幅員二〇センチメートルの側溝が設けられている。本件事故現場付近は夜間は暗い状態となる。最高速度は時速三〇キロメートルと指定されていた。
被告は、本件事故当時、本件道路南行車線上を時速約三〇キロメートルで南進走行しており、前方約五〇メートルの南行車線上(中央線から二メートルの地点)を南進している原告自転車を発見し、これを追い越そうと考え、クラクションを二、三度鳴らした後、対向進行する車両もなかつたので、北行車線内に進入し、時速約四〇キロメートルにまで加速して進行したところ、原告自転車が合図もなく急に右折し始めたのを約四・八メートル手前で認め、急制動の措置を講じたが、約四・九メートル前進した地点の中央線付近で、被告車左前部を原告自転車に衝突させてこれを転倒させ、さらに約一五メートル前進して停止した(その間に北行車線上に南北に約六・八五メートルの制動痕が生じた。)。他方、原告は、本件事故発生前日の午後八時過ぎから午後九時ころまでの間友人の和田芳明と飲酒をして少なくともビールジョッキ一杯と日本酒一合を飲んでいたが、本件事故発生時の直前、和田と食事に行くことになり原告が原告自転車を運転し、和田が後部荷台に同乗して本件道路に至り、南行車線上の中央線から約二メートルの付近を南進走行してきて、本件事故現場から北に通じている幅員二・九メートルの路地に進入しようとして、合図をすることもなく、後方も確認しないまま急に右折を開始したため、前記のとおり被告車と衝突したものである。
<証拠判断略>
2 右認定事実によれば、被告は、被告車を運転して原告自転車を追い越すに当り、前方を十分注視して、先行する原告自転車の動静に応じた安全な走行をすべき注意義務があるのにこれを怠り、制限速度を約一〇キロメートル超えた時速約四〇キロメートルに加速して漫然追越しをした過失があると認められ、他方、原告は、夜間原告自転車を運転するに当り、後方の被告車の動静を十分確認することなく、合図もしないで急に右折を開始した過失があると認められる。
3 右認定の本件事故発生についての原告及び被告の各過失の態様、車種の相異等諸般の事情を考慮すれば、過失相殺として原告の損害の五割を減ずるのが相当と認められる。
従つて、原告の前記損害額五一五四万四九一四円から五割を減じて原告の損害額を算出すると二五七七万二四五七円となる。
五損害の填補
被告の主張2の事実は、当事者間に争いがない。
従つて、原告の前記損害額から右填補分六五四万七八七六円を差引くと、残損害額は一九二二万四四八一円となる。
六結論
よつて、被告は原告に対し、金一九二二万四五八一円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五七年七月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(長谷川 誠)